経営者インタビュー

がんばる社長を応援する、「コンフォートポジション」の、記念すべき第1回目のインタビューは、「朝礼に参加すると、ラーメンがタダになる」名物ラーメン店:(株)ばりばりカンパニー社長の、宇佐美貴康さんにお願いいたしました。
ご多忙の中、インタビューに、ふたつ返事で明るく応じてくださったご厚意に心から感謝いたします。

株式会社 ばりばりカンパニー 代表取締役  宇佐美 貴康 氏
プロフィール

株式会社 ばりばりカンパニー
代表取締役  宇佐美 貴康 氏

http://baribari-company.jp/
1972年 愛知県一宮生まれ。
商店街で育ち、専門学校を卒業後、当時では貴重な男性保育士として活躍。
その後、飲食店の夢をすてきれず、一人で全国のラーメン屋を巡り、その見聞をもとに2004年 「博多ラーメンばりばり軒」をオープン。
わずか9年で7店舗をオープンする。
スープの味に納得いかず、オープン日を延期し、「なかなかオープンしないラーメン屋」としてむしろ宣伝になり、大行列ができる話題の名物店になる。
「朝礼」を一般公開し、お客様が気軽に参加でき、しかも、朝礼後にタダでラーメンが食べられると話題になる。
その後、ラーメン好きがわざわざ通う店として取材が殺到し、数々のビジネス雑誌にもたびたび取り上げられるようになる。
自身の経験をもとにした独自のマーケティング論は、MBA資格者もうならせるほど。
今秋、コンビニエンスストア:ファミリーマートとのコラボレーション商品も発売予定。
掲載書籍:「朝10分」で仕事は片付ける:プレジデント社:野地秩嘉著

インタビュー

市野 まずは、ばりばりカンパニーを創業したきっかけを教えてください?
宇佐美 僕は商店街で生まれ育ったんです。
家が自営業だったので、日曜日も遊ぶとところは商店街の中。
そのなかで、ご近所のお店、たとえば、うちの隣は鰻屋だったんですが、当時小学生の僕にも手伝わせてくれたんですよ。時間ができるとエプロンをして、お店の中に入り、「いらっしゃい、何にしましょう。はい、うな丼並、ひとつね。」という具合に、リアルなお店屋ごっこができたんです。
ばりばり軒
ばりばり軒
商店街には、大きな子から小さな子どもまで、さまざまな年令の子どもがいて、みんな両親がお店屋で忙しいから、自然と大きな子が小さな子どもを見ながら遊ぶという習慣ができていたのです。そんな幼少時代を過しながら「飲食業」か「保育士」になる夢を持ちました。
そこで、高校で進路を決めるときになって、まずは保育士になろうと思ったんです。
保育士になり、子ども達と関わる仕事は面白くて楽しくて、それでいて尊い仕事だったんですけど、ふと、このままずっと「大きな栗の木の下で~♪」と40代、50代になってもやっているのかなぁと、漠然と思い、子どもの頃のもう1つの夢だった「飲食業」で起業したいと思い立ったんです。
そこで、ラーメンが大好きだったので、ひとりで車に乗って、日本中のラーメン屋を周りました。
車の中で寝起きして、昼にラーメン、車や公園で休憩をとり、また夜もラーメンという生活でした。
店の裏側に回って、どんなものでダシをとっているか、こっそりゴミ箱を覗いてみたこともあるんですよ(笑)
市野 ゴミ箱の中も!すごいエピソードですね。
子どもの頃の「お店屋さんごっこ」の遊びが、起業の原点だったわけですね。
では、どうしたら、ばりばり軒のような、行列ができるラーメン屋さんができるのでしょうか?
宇佐美 日本中のラーメン屋さんを周っているうちに、いろいろなことが分かりました。
例えば、1時間以上待ちの、ものすごく長い行列ができていて大評判のお店でも実際に食べてみると、口に合わないことが多々ありました。
そこで、「じゃあなぜ、この店は繁盛するのか?」って事を考えるようになり、また、反対に繁盛していない店も周り、「この店が繁盛しない理由は何か?」も考え、それぞれの共通点を探しました。
そして、気付いたんです!
「繁盛しているお店は美味しそう」これは味だけでなく、接客や店作りなども含み、総合的に美味しそうなんです!反対は「美味しそうでない」これも総合的に。
ラーメンを作って出すだけではいけない。それは作業。そこに気持ちが入って「接客」になり、美味しそうな雰囲気を作るのが店作りなんです。
特に大切なのは「心のある接客」で、例えばお客さんの事を覚え「いつもすんませーん」とか「あっまいど」と『お客さん、あなたの事はちゃんと覚えてますよ』と分かるように伝えたり、うちは博多ラーメン屋だからスタッフが博多弁で接客したりして楽しく食べて頂けるようにしたりしてます。そうすると嬉しいし、楽しいしから「心も満腹」になるでしょ。
どんなにおいしい食事も、嬉しかったり、楽しくなければ「もう1度来たいお店」にはならないんです。
朝礼の様子
朝礼の様子
市野 目には見えない「心」をいちばん、大切にすることなんですね。そうされたら、また行きたくなりますよね。私もまた、ばりばり軒のラーメンが食べたくなりました(笑)
ところで有名な、朝礼のメリットはなんでしょうか?
宇佐美 繁盛店を作るには、活気が大事。活気を出すには元気な声を出すのが一番。
これは保育園の子どもも一緒。
みんなで大声を出せば連帯感がもてるし、気持ちが切り替わる。仕事だぞって。
それと朝礼をすると、時間に間に合うように来るから、遅刻がなくなる。
そして、元気に朝礼をしていると、近所の評判になるし、人も集まってくる。たまたま通りがかった人もなんだろうと、気にかけてくれるようになるんです。
毎日、大声を出すから、隣近所も慣れてきて、「今日はちょっと元気がなかったね」と声をかけてくれたこともあるんですよ。
市野 朝礼をとおして、地域にも元気を与えて、愛されているんですね。
そして朝礼は、人材育成にもいい効果があるんですね。
では、宇佐美社長の考える人材育成とは?
宇佐美 「誰でもできること」はどんどんスタッフに任せる。
でないとずっと自分は現場にはりついていないといけなくなって、次に進めない。そして人も育たない。
例えば「おいしいものをいかに作るか」という技術なんかはマニュアル化して、誰でもできるように分かりやすく伝える。次の人材となる即戦力をどんどん育てるんです。
社員旅行
社員旅行
そしてね、僕が現場にいた時には、お客さんのことだけを考えればよかったんだけれど、店長を育てて、お店を任せるようになると、今度はスタッフのことを第1に考えなければならなくなったんです。スタッフが喜んで仕事をするお店にしないと、そのスタッフがお客さんを喜ばすことができないからね。店の売上げよりも、店長やスタッフが大事なんです。
そして、スタッフには「失敗」はどんどんして欲しい。自分と同じ様にやるのはムリ。自分のコピーは出来ないんです。
例えば、新しい店長に変わったとする。当然、今までのようにはいかなくなる。前任者と比べられたり、慣れていなかったりしてお客さんやスタッフからクレームがでる。そして売り上げが落ちる。でもそこから、その人なりのやり方を学んで、自信をつけていけばいい。上の役職があらかじめ落ちるのをわかっていれば心配はいらないんです。
教育は、「信じて」、「待ち」、「見守る」のです。保育園で子どもを育てるのと同じです。
市野 信頼して、任せきるのですね。そんなスタッフは皆さん、いろいろな方がいらっしゃると思いますが、みなさん優秀なんでしょうね。
宇佐美 はい素晴らしいスタッフばかりです。が、創業当時はそうでもなくてね。最初、僕みたいなやつのお店で働いてくれてありがとう!って心から思っていたから、お客さんがいてもカウンターの中でおしゃべりしているスタッフにも強く注意することができなかったんです。当然、お客さんから苦情がくる。
で思ったんです。「注意しないのは彼らの為にならない。ダメな事はダメと言う事が彼らの為になるんじゃないか・・・」と。
そこで、一大決心をしてある日、みんなの前で謝ったんです。
「苦情がでるような店にしたのは全部、僕のせいだ。僕がきちんと指導できなかったのが悪かった。これからは、今までとは違う店にする。キツイことも言う。だからついてこれないやつは、悪いが辞めてくれ」って謝りました。そして、今後の理想、今の「ばりばり軒」の理念を話したんです。
嶋津部長
嶋津部長
すると、スタッフがガラっと変わりました。「ちゃんとやるのはいいことだ」と、教えると人は変わるんです。

そしてね、僕よりスタッフを育てるのが上手かったのが、うちの部長なんです。
彼はとことんスタッフの話を聞いて聞きまくって、スタッフの気持ちに寄り添うことができるんです。そしてスタッフの様子が少しでもがおかしいなと思うと、必ず、すぐ会ってスタッフが納得するまで、とことん話をする。悩みや問題はその場で解決する。彼が上司だから、スタッフも安心して仕事ができるんです。そんな彼だから安心してスタッフを任せておける。その間に僕は別の仕事をすることができるんです。
市野 つまりNo.2を全面的に信頼して任せきっているんですね。
宇佐美 そうです。彼は僕の右腕、三国志に例えて言うなら、僕が劉備で彼が「諸葛孔明」です(笑)
市野 そうやって宇佐美社長に全面的に信頼されるからこそ、部長も力を存分にふるうことができるんでしょうね。部長には普段、どんなことを伝えていますか?
宇佐美 ばりばり軒の理念はもちろん、僕の会社に対する思い、彼を心から信頼していることを言っています。そのうえで、彼なりの色を出してほしいということを。
市野 社長の思いやその象徴である会社理念を共有していらっしゃるんですね。そしてその人なりの強みや、よいところを尊重しながら、会社の中で活かしているんですね。
今後の宇佐美社長のビジョンをお聞かせください。
宇佐美 まず、今ある店舗を、3~4年後までに20店舗に増やします。でも遠くにはださないかな。スタッフにも家族がいるから、できれば近い方が通うのにいいでしょう。
そのあと、僕はこの繁盛店を作るマニュアルを、人に伝えたいんです。職業でいうと、コンサルタントみたいなことをしたいんです。
市野 繁盛店のマニュアル、聞きたい人はたくさんいると思いますよ! では最後に、子どもたちや、未来の経営者に伝えたいことは?
宇佐美 やりたいことが見つかれば、とことんやる。やりたいことを突き詰める。
起業は簡単。だって、やりたいことをやるだけだから。それよりも経営、業務の発展・継続の方が工夫がいる。
失敗や苦労はもちろんあります。いや、この場合の失敗とは「失敗らしきこと」で、そこであきらめると本当に「失敗」になるから。
「じゃあ、どうしたら上手くいくか」をいつも考える。

あ、市野さん、これだけは聞いて欲しい話があるんです!いいですか?
僕が最近、一番うれしかった話です。

知り合いの知り合いに、どんどん筋肉や体が衰えていく病気になった方がいるんです。
もう肺の機能もなくなってきて、そのうち自分でものを口から食べられなくなる、ということになってね、ある日、「最後に食べたいものは何か」と聞かれたのです。
するとその方は、「ばりばり軒のラーメン」って言ったそうです。
それを聞いて僕はすごくすごくうれしかったんです。スタッフもみんなすごく喜んで、モチベーションがあがったんですよ。今度その方が来てくださるので、みんな楽しみなんです。

そしてね、まだこれはスタッフには話していない話なんですけれど。
昔、僕の同級生が癌になってね。会うたびに痩せていくんです。でもそんなことは言えない。
へい、お待ち!
へい、お待ち!
そんなある日、そいつがフラっと店に来てくれたんです。
その頃には、やせ細って痛々しくて。でもがんばって普段通りに声をかけたんです。すると「本当はラーメンは医者に止められているんだ」って彼が言ったから、僕は怒ったんです。「何でくるんだよ!」って。で彼がこう言ったんです。「でも、ここ(ばりばり軒)に来ると元気がもらえるから来たんだ」と言って、医者に止められているラーメンを「おいしい」って食べていってくれたんです。
しばらくして、彼は亡くなられたんですけれど、人生の最後の方に元気をあげられたのがうれしかった。あぁ、この話もスタッフに伝えたいな。人に元気をあげられる店で働いてると、自分の仕事に今以上に自信を持ってくれるだろうな。

編集後記:
最後の話を聞きながら、思わず涙ぐんでしまいました。
宇佐美社長は、最初から最後まで、明るく熱く、語ってくださいました。
ご自身がおっしゃっていた「とことん突き詰める」の言葉どおり、大変、勉強熱心です。
歴史からもよく学んでおられ、理想の組織作りは、260年以上続いた「徳川幕府」だ、と徳川家康の「大将の心得」を教えてくださいました。No:2の部長から教わったそうです。
信頼しているNo:2の部長の言葉を聞いてすぐに吸収する素直さを持っていらっしゃいます。
何より、「みんなのいいところから学んで、教えてもらう」「周りはみんな先生」とおっしゃっておられ、とても謙虚な方でもありました。
また、最後のエピソードが語るとおり、私が多くを記すまでもなく、本当に愛されているお店、会社です。そして、とことんスタッフ思いの宇佐美社長です。
こんなお店で働くスタッフは本当に幸せですね。
2012年10月
市野範子